会長岸本さんとの邂逅

 

20年前、工場で作業している私をガラスのドア越しにじっと見ているオジサン、それが会長岸本さんとの出会いでした。

何か用?と、私。いや見ていたいんで、いいですか?と、岸本さん。

当時の私は一人で仕事していて、邪魔をされるのが嫌だったのですが、目線を感じつつ無視することにしました。
数回続けて来てはガラス越しに覗くオジサン、そのうちに、工場の中に入っていいですか?隅のほうで仕事の邪魔はしませんから、と言われ、しぶしぶいいですよと私。

会話も無くまた数回が過ぎました。

あるお客さんから自分の知り合いだということを告げられ、そのお客さんに、あのオジサン何?と尋ねた所、少し前にBEVELを個人売買で購入したけど調子悪いみたい、との答え。
じゃ診てみるから持って来てって伝えてください、と言ってようやく会長岸本さんのバイクが登場しました。それから20年にわたり世話をすることになった訳です。
使用が峠の走りなのと丁寧な扱い方だったので、定期的なメンテナンスで済みました。
10万キロの内2回のフルオーバーホールと、キャブをマロッシに、排気をベルリッキの2イン1に、ホイルをカンパのマグに、フォークをマルゾッキのMIRに、ブレーキはフロントに4Pとフローティングローター、リヤサスはオーリンズ。これでかなり岸本さんにとってお気に入り使用になりました。ここまでのモデファイに5、6年をかけて、その間ライダーも成長、変化を遂げてきました。
勿論私も変わりましたが、今振り返ると自分が何かを決断したり、悩んだ時にはいつも岸本さんに相談し、意見に耳を傾けました。
そのおかげで独断、偏見のカタマリの私が大きく道を外れることがなかったのでしょう。岸本さんは今の時代には珍しく、一本筋の通っている男です。
頑固ですが周りに気を使うことも忘れません。今回のアクシデントで、私には計り知れない、苦悶があったことでしょう。

これからどう生きていくのか?そんな会長、岸本さんの30年に渡るドカ日記です。

 

川瀬 英幹